バレアリック・ビート

バレアリック・ビート

 

『MOOB JAPAN』Vol.03 1995年2月号pp.2-7(発行:MOOB JAPAN編集部)に「BAREALIC & RAVE CULTURE」と題して同テクスト掲載

 

誰もが1989年に死者95名、負傷者200人近くを出した、ノッティンガム・フォレストリヴァプールのサッカー戦のことは記憶に新しい所だろう。このようなサッカー場で暴動を引き起こしたグループをサッカー・フーリガンと呼んでいるが、そのグループの構成を成しているのが、イギリスの中産階級以下の大多数の若者である。彼らのフーリガンという呼称は、警官と乱戦を繰り返し獄死したパトリック・フーリガンの名前に由来しており、日本でいうところのヤンキーに相当するものとでも思えばいいだろうか?ロックの流れは、モッズやロッカーズ、そしてスキンズにしても常にイギリスではこのフーリガンの風俗とコミットする形で大きく成長してきた。そして、ハウス・ミュージックもまた、このスポーツ・フーリガンで大きく変貌を遂げたのである。

現在のハウス・シーンの中心はレイヴへと移動しつつあるとよく言われるが、このレイヴ・ムーブメントを今日の拡がりと規模にまで拡大させたのは、実は『BOYS OWN』というフットボール・マガジンであった。読者の中には『えっ、音楽雑誌じゃないの!!』という声が聞こえて来そうだが、『BOYS OWN』のDJ、アンディ・ウェザオールとテリー・ファーリーが彼らの雑誌のパーティーのために行ったDJ MIXが、ニュー・バレアリック・ビートとしてイギリス国民に熱狂的に迎え入れられたのである。バレアリック・ビートとは、元来、イギリスの高級避暑として名高い、地中海のバレアレス諸島のイビザ島で伝説のDJアルフレッドによって始められたハウス・ミュージック(正確にはディスコ・ミュージック)のスタイルのことで、基本的には音楽ジャンルは“何でもアリ”のリミックスでプレイされたものだった。このスタイルを『BOYS OWN』のDJたちが汲む形で、『ボーイズ・オウン・パーティー』を開き、一説によるとパーティーの参加者は数10万人規模まで膨れ上がったという。この89年のパーティーを中心に、クラブという閉じられた空間からレイヴへと一気にその中心を野外へ移すのである。もともとのレイヴの発生起源はクラブの閉店後に、興奮冷めやらぬクラバーたちがラジカセなどを用いて店外の路上で踊りまくっていたことに端を発するのだが、その流れが前述したようなイビザで誕生したバレアリック・ビートの流れと合体することで一大レイヴ・シーンを生み出していったのである。そしてこの流れがマンチェスター・サウンドにも影響を与え、マンチェスター・サウンドの代表格とも言えるバンド、ジーザス・アンド・メリーチェーンのDr.であったボビー・ギレスビーが、新ユニットプライマル・スクリームを変性し、「ローデッド」や「ドント・ファイト・イット・フィール・イット」のメガヒットを生み出していった。この事でも明らかな様に、バレアリック・ビートとマンチェスター・サウンドの関連性を不動のものにしたことはよく知られていることだ。そして、後にこのムーブメントに『THE FACE』誌や『iD』誌までもがファッションも含めた立場からアプローチし、バレアリック・ムーブメントがレイヴ・カルチャーとして確立していったのである。

やがて、成長し続けるレイヴ・パーティーの中で奇妙な出来事が持ち上がった。ハウス・ミュージックを生んだブリープ・ハウス(スイート・エクソシストの「テストーン」に代表される信号音が記号的に用いられるハウスのこと)をレイヴの会場でプレイするとブーイングが起こり、総じてレイヴァーには受けが良くないという現象があらわれ始めたのである。理由は簡単で、閉じられたクラブで過熱しすぎた客のスキゾ・ハイになったテンションを下げるために用いられるブリープ・ハウスはレイヴ・シーンには無用な存在であり、単に徒らにグルーブの流れを止めるじゃまな音楽でしかなかったのである。リミックスされ、CDに残されたサウンドを聴く限りでは、ネオ・ガラージュ・ミュージックに近い感覚であることからも、バレアリック・ミュージックの中では、ウェアハウス・パーティーと同列のものであると言えよう。この人種のるつぼニューヨークにおいて、あらゆる階層の人々とのコミュニケーションを促進するためのパーティーで、逆にコミュニケーションを損なうようなDJプレイが敬遠されたように、レイヴ・パーティーにおけるブリープ・ハウスは会場の熱気に水を差すものとして敬遠された。彼らはウェアハウス・パーティーの信条であるところの、パーティーでのコミュニケートに重点を置く。そして、異なったグルーヴを結びつけ、横断移動を中心に置いたDJ MIXを行い、特定のグルーヴを押し出すのではなく、グルーヴ自体のミックスから生まれるダンス・グルーヴの持続性こそを大切にする。内在的なコミュニケーションを促進するために、出来る限り音楽空間を平面化するためのスキゾ・ミックスを持続し、会場をある特定の音楽的カラーで意味づけることを避ける。つまり、音楽的意味合いが希薄であればあるほど、自由にコミュニケートできるというわけだ。

そこでは現代思想でいうところのポスト・モダンの風俗的実践がはっきりと姿を見せる。劇作家アナントナント・アルトーが言った、空虚な〈器官なき体〉の孤立した諸強度域と他のグルーヴをつなげて強度の連続体〈プラトー〉を作り出すことにレイヴは的を絞り込む。現『REMIX』誌編集長の若野ラヴィン氏が、かつて「ハウス・ミュージックはダンスフロアを脱魂(ルビ:トリップ)も憑霊(ルビ:ポゼッション)もさせない」と言ったことは特にこの事を意味している。ここにはクラブを中心にプレイされる抽象的なハウス・グルーヴが持たらすスキゾ・ハイの状態とその外延性が持たらすトリップやポゼッションこそが、実はコミュニケーションを疎外するものでしかないとする視線がある。確かにポスト・ロックをも含め、ハウスの中にも、レイヴ中心を見た場合、ブリープ・ハウスのようにコミュニケーションを除外する音楽が数多く発見される場合は確かだ。だが、ハウス・ミュージックの流れの中に、サイバーパンクの要素を取り込み、ウィリアム・バロウズや『MONDO 2000』に代表されるコンピューター・カルチャーと深く関わる音楽があることも無視できない事実だろう。確かに、テクノロジーとオカルティズムが結びつく段階にまで一気に話を進めなくても、SET (Synaesthetic Electronic Technologies)と呼ばれる、共感覚電子技術が見せる問題は、サイバースペース人工知能遺伝子工学によって人間を根源から再定義し直したように、SETによってムードやイメージや文明と呼ばれたもののリアリティの再定義が現在我々に持たらされつつあるのも紛れもない現実である。そこではジョン・C・リリーが言うE.C.C.O.(ルビ:エコ)システムや、ティモシー・リアリーからラム・ダスにつながる人間の意識の深層への電子ユング的意識の解放と変容がある。ロバート・アントン・ウィルソンやテレンス・マッケナが言うドラッグが持たらす人類の進化と、ハウス・ミュージックは密接につながり、レイヴ・カルチャーとはまた別の面を持っていることも見逃せない事実である。コミュニケーションを最大の価値とするバレアリック・ミュージックに対し、人間のリアリティを再定義するアシッド・トランス系のテクノ・ハウスの流れも確実に存在するということを忘れてはいけない。そして、それらが袂を分けたのは、ブリープ・ハウスの受容如何の問題に係わってくるのであるが、事実レイヴ・カルチャー的色彩の強い『REMIX』誌が我が国では最大発行部数を誇る中で、阿木譲、深田都志哉編集による『E』以降、『STUDIO VOICE』や『INTER COMMUNICATION』などに時折特集が組まれるぐらいで、取り立ててテクノ・ハウスの流れを追う雑誌が刊行されていないのが現実である。僕はレイヴ・カルチャーが悪いと言いたいのではない。ハウス・ミュージックの流れに、最低でも今挙げた二つの流れが存在することを認め、この両者ともに重要な意味を持っているということを伝えたいのだ。確かに『REMIX』誌がベスト・チョイスした『REMIX TRAX』シリーズの中で、最近テクノ・ハウス系の特集として『Vol. 7 COSMIC SOUL』がリリースされたことは喜ばしい限りであり、ブリープ・ハウスやアシッド・テクノ系を聴いて来た者にとってはこの『REMIX』の取り組みは評価に値するものだ。(ちなみにライジング・ハイ・レーベルの音を好きな友人はデリック・メイやマッド・マイクが取り上げられているので狂喜していた)また同シリーズからは過去にバレアリック・ビーツの名DJダニー・ランプリングを早くから取り上げたV.A.『Vol.3 DISCO HOUSE』などもリリースされていることも見逃せない。アシッド・テクノは、現在、FAXやSILENTレーベルに象徴されるように多種多様なアンビエント・ハウスに向かいつつある。それが、たとえ、若野氏が言う「ムード、雰囲気、イメージといったものでコントロールし、音楽が持っている別の空間(身体のない外延的な)へとトリップさせてしまう、超越論的なものの回帰」であったとしても、現在コンピューター・カルチャーと結び付いたハウス・ミュージックはこのトランサンダンスな側面に直面した作品としてリリースされているという紛れもない事実がある。そしてその数は日増しに増加しているというのも事実である以上、テクノ・ハウスはその“超越論的なものの回帰”の内実を語らなければならない段階を迎えている。ポスト・モダンな感覚からシリコン生命体へのエレクトリックなコンタクティへと意識の方向性を拡げざるを得ない段階に世界は向かいつつあるのではないだろうか?我が国での真のサイバーカルチャー雑誌の刊行が待たれる本年である。

 

 

REMIX TRAX

『Vol. 3 DISCO HOUSE issue』(MECP-30017)

『Vol. 7 COSMIC SOUL issue』(MECP-30021)

アウトバーン

 

MAGAZINE

『REMIX』アウトバーン

STUDIO VOICE』インファス刊

『INTER COMMUNICATION』NTT出版

 

 

 

 

https://www.youtube.com/watch?v=iO1oLIOS-kY&list=PLpITeoDlIj5Tuatz7Gt6TUg7R9Vus8WrR&index=5

www.youtube.com

www.youtube.com

 

 

f:id:hynm_show5:20170519103112j:plain

 

 

 

 

 

www.residentadvisor.net

 

f:id:hynm_show5:20170514194503j:plain

https://www.facebook.com/events/199369987246169/

 

f:id:hynm_show5:20170519114934j:plain

https://www.facebook.com/bon-appétit-846966395351737/?pnref=story